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命のバトン

特別養子縁組を立ち上げて、やがて1年が経とうとしている矢先、待望の赤ちゃんが誕生した。元気な男の子で、誕生の産声は聞けなかったが、病院からの知らせに飛んで行った。新生児室のガラス越しから安らかな寝顔の赤ちゃんを見た時、「無事に生まれて来てくれて、ありがとう!あなたを待っていたのですよ!あなたは幸せになりますよ!」という言葉が自然に出て来た。この子には、愛情を持って育ててくれる養親さんが待っており、本当に待ちに待った赤ちゃんで、生まれたという知らせに電話の向こうから歓声が聞こえて来た。



 この赤ちゃんは私たちにとっても初めての赤ちゃんであり、赤ちゃんを産んでくれた母親とは妊娠が分かった時からの付き合いであった。産んでも育てることは出来ないということで、しかし生まれてくる子どもには幸せになってほしいという思いから特別養子縁組を選択してくださった。私たちはその母親の思いをしっかりと受け止め、養親さんには半年余かけて面接、家庭訪問、研修等を行い、無事養親としての登録を終えたところであった。



 私は長年福祉の現場で勤めていたが、若年の母親が子どもを産みたいということで子どもを産み、しかし産んだ後のその後の長い道のりを考えた時に、暗澹たる思いでどうすることもできない無念さを抱いていた。しかし今回は違っていた。生まれてきた男の子は、間違いなく幸せになれるのである。あんなにも子どもの誕生を待ちわび、出産を喜び、そして日に日に養親さんが実の親として成長していく様子を見た時は、まさに命のバトンはしっかり引き継がれたと実感した。


 時を経ず、2番目の赤ちゃんが誕生した。今度は、女の子である。登録を終えたばかりの養親さんに電話を入れると、神が授けてくれたのだと感謝の声が潤んでいた。赤ちゃんを産んでくれたお母さんには、無事に産んでくれたお礼にを言い、そして子どものために勇気ある決断をしてくれたことに感謝した。


 事務所には、今度生まれてくる赤ちゃんのために、手作りのお雛様を飾っているが、それを見て3日過ぎても飾っていたらお嫁に行き遅れますよといわれてしまった。でもそれは昔の話で、今はお嫁にいくのが女性の務めではなく、健康で自立して生きることが第一だから、ゆっくり楽しんで飾りますと言ってしまった。しかし、3月中には仕舞えそうで、内心ホッとしている。(Y/Y)

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